19世紀前半のフランスは、大革命後の混乱から、またいくつかの政変を経て新しい時代へと入っていく。中でも1830年代、ルイ・フィリップの治世下の頃のパリは、貴族の社交界にも新しい波が打ち寄せてくる。経済界に台頭してきた実業家たちや、当時華やかに開花していた芸術家たちを貴族のサロンが迎え入れ、交流を果たすことで新しい時代のパリにエネルギーを蓄えていった。
主人公の青年アルベール・ド・クレールは貴族の劇詩人として世に出ようとしていたが、ある時マルタン夫人のサロンで、8年前互いに恋心を抱いたまま別れた伯爵令嬢ヴィヴィアンヌ・ド・ポヴェールに再会する。
ヴィヴィアンヌはあいつぐ政変の中で父と兄を失くし、母と共にイギリスへ亡命していた。この再会に二人の愛はまだ続いていることを確認するが、アルベールは恋人の懐かしい笑顔の中に、時折り沈むもの想いを見逃さなかった。
やがて彼は、彼女の胸の中に大きな復讐の念が渦巻いているのを知る。父と兄とを暗殺した大貴族ランブルーズ侯爵を狙うという大それた計画―――。
アルベールはヴィヴィアンヌを傷つけずに自分の方法で、その復讐を成し遂げようと一計を案じていく。そこには同じ志を持つ友人のオーギュスト、侯爵の愛人でサロンの女主人であるギャランティーヌ、パリの裏の世界の男サバティエなどの助けがあった。
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